小津映画

 今年は小津安二郎の生誕120年ということで、先週のBS松竹東急では小津特集として、5日間に渡り、晩春、宗方姉妹、麦秋、東京暮色、小早川家の秋が放送され、BS1では東京物語、お早うが放送されました。晩春では原節子の若い頃の姿を見て、どこか日本人離れした容姿に目を引かれました。小津映画のカメラアングルは低い視点からとることに特徴があるのはよく知られていますが、その低い視点は長い箱の端から遠いむこうを見るようなアングルが多いことに改めて気がつきました。身近にある少し遠景の風景が心象を暗示するように使われているのも有名ですが、やはり効果的だと再認識しました。戦前の作品のテーマは、東京や鎌倉、時には京都を舞台として、娘の結婚をめぐるブルジョワ階級の家族の意向が描かれています。作品の題名に「晩」春、麦秋は初夏のことすが寂しさを感じさせる麦「秋」、「暮」色など、伝統的な価値観への追憶を取りあげながら、時代の変遷に戸惑う家族の様子が描かれています。気になるのは、登場人物の会話です。「おかけ」、「お入り」など優しい命令形の言葉、今まで特に違和感を持たなかった言葉に違和感を感じました。もう一つは、「そうか、そうだな」というような人の言葉を受けて繰り返す台詞の多いことです。小津の映画の落ち着いた雰囲気を形作る大きな要素ですが、年よりも若い人も同じように繰り返します。時代的なものでしょうが、少し気になりました。

 言葉の面から言えば、今回の松竹東急の5本の映画の中で、異質な作品となっている京都/関西を舞台にした「小早川家の秋」を面白く見ました。関西言葉はテレビの世界では下品でどぎついものとし扱われていましたが、鴈治郎浪花千栄子の関西弁のきれいな柔らかさを堪能しました。